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長男がまだあどけなかったころ。 将来の夢をたずねると、 「大きくなったらカエルになりたい」 と言っていた。 そんなかわいった彼も順調にクソガキの階段をのぼっており、今では 「おしりぶりぶりソーセージ〜」 とか言うようになってしまった。 それを言うならちんちんぶらぶらやろ、とついつっこんでしまうのは関西人のサガか。 長男のカエルフィーバーは長らく続いていた。 ちょうどその時期が、入園グッズを買い揃える時期と重なったので、通園バッグやランチクロスなどはカエルでそろえた。 巾着袋も、カエルの柄の布でつくった。 しかし、皮肉なことに、入園グッズがほぼそろったころに彼のカエルフィーバーは冷めてしまった。 世の中そんなもの。 それでも長男は喜んでカエルグッズで登園していたのだが、最近になって、カエルのランチクロスと巾着袋をいやがるようになってきた。 丸2年使っているので色あせてきてるしボロボロだし、そろそろリニューアルの時期ではある。 これを機に作りかえる(or買いかえる)のもちょうどいいか、と思い、ではカエルじゃなかったら何だったらいいのかたずねると、しばらく考えてから、 「ポケモンがいい」 と答えた。 そうか、それならピカチュウのやつを探してくるね、と言ったら、 「ピカチュウじゃなくてギラティナにして」 と注文をつけやがる。 かわいくないぞ! そもそもなぜ突然カエルがイヤになったのかたずねてみると、 「だってソウタ君が、カエルは弱いからダサイって言ったから」 ふむふむ、なるほど。 じゃあ、なんだったら強いの? 「ソウタ君はね、ゴーオンジャーがいちばん強いからいちばんカッコイイっていう」 なるほど、なるほど。いかにも年中児らしい会話ではある。 「でもねぇ、ぼくはゴーオンジャーは嫌い」 へぇ。どうして? 「だって、おもしろくないもん」 ずこっ! ヒーローはおもしろくなくちゃいけないのか? それで長男はどう答えたのか聞いてみた。 「ゴーオンジャーよりもガンちゃん(ヤッターマンの主人公)がいちばんカッコイイって言った」 ケンダマジックのまねをしたら、みんなも納得したそうだ。 それで一件落着したならいいではないか、と思ったら。 どうも、彼の中ではまだ何かくすぶる思いがあったようだ。 「ねぇ、アンパンマンってダサイよなぁ?」 と突然言ってきた。 「そうかなぁ。お母さんはダサくないと思うけどなぁ」 「アンパンマン、ダッセーよ」 「ふうん。どうしてそう思うの?」 「だって、アンパンマンは弱っちくってダッセー、ってみんな言うもん」 ソウタ君もコウキ君もみんなそう言うよ、と言う。 アンパンマンのどこが弱っちいのか問うと、 「だって、顔がぬれただけで力が出ないから。そんなの、弱ぇーよな」 ああああ、この子もこんな言葉遣いをし、周囲の反応を気にするようになったのか。 ほんの数カ月前までは、周囲が「ぷぷぷっ、まだアンパンマンなんか好きなの?」とあからさまに笑っても「うん、だってぼく、アンパンマン好きだもん」と堂々と答えていた長男が。 「弱っちい」だの「ダッセー」だのと言うようになったのか。 彼のクソガキぶりを目の当たりにして、たしかに少し寂しくもあったけど、それよりもうれしくて、頼もしくもあった。 すると、私たちの会話をずっと聞いていた次男が、 「ノムはアンパンマンがいっちば〜ん♪ だってアンパンマン、やさしいもん」 と、アンパンマンのオモチャで遊びはじめた。 「でもガンちゃんもやさしいよ」 ムキになる兄に、 「でもアンパンマンはやさしいもん」 「お兄ちゃんはピカチュウも好き。だってピカチュウは百万ボルトで強いもん」 「ノムはアンパンマンが好き。おいしいもん」(食べたことあるのか?) 「あっ、お兄ちゃん、リザードンも強いから好き!」 「ノムはアンパンマ〜ン♪ だってやさしいも〜ん♪ おいしいも〜ん♪」 こういう時の次男は強い。 余裕というか、ゆとりが違う。 結局、長男がひとりでムキーッと空回りして、最後は 「アンパンマンは強くないったら強くない! ぼくはアンパンマンは嫌い! ガンちゃんがいいの!」 と地団駄を踏んで終わった。 そんな、泣かんだかて……。 と私は笑いをかみ殺していた。 その夜。 次男の寝息が聞こえてきたし長男もそろそろ寝たかな、と思っていたら、 「ねえ、お母さん。アンパンマンって本当はいちばん強いんだよ」 と長男がムックリ起き上がった。 なんだなんだ、まだ寝てなかったのか。 っちゅうか、まだその話かいな。 「ぼくねぇ、ゴーオンジャーもガンちゃんも百万ボルトもみんな強いけど、アンパンマンがいちばん強いと思う」 布団をかぶりながら、長男はきっぱりと言った。 ふうん。どうしてそう思うの。 「だってねぇ、アンパンマンはおいしいもん。そしてやさしいもん」 なるほど。 おいしい上にやさしいとなれば、そりゃ、鬼に金棒だねぇ。 「ぼくねぇ、さっきアンパンマン嫌いって言ったけど、本当はちょっと好き」 こっそりと照れるのがかわいくてかわいくて。 「あらそう。じゃあ、ランチクロスはアンパンマンのにする?」 と試しに言ってみると、そこはやっぱり 「やだ。ヤッターマンかポケモンがいい」 ときっぱりと言われた。 「どうして? 本当はアンパンマンが好きなんでしょ?」 とからかうと、 「本当はアンパンマンが好きだってことは、ぼくとお母さんのひみつね」 と言う。 そうかそうか、二人だけのひみつか。 よしよし、ないしょにしておいてあげるからね、と言うと安心したのか、長男はその後すぐに寝た。 ナマイキなことを言うようになっても、やっぱりまだまだかわいいなぁ、とおかげでその日は幸せな夢をみられた。 その数日後。 保育園からの帰り道、長男はまたこの話をぶり返した。 「ぼくが本当はアンパンマンがいちばん好きだって言ってね、だっておいしくってやさしいから一番強いぜって言ったらね、ケン君がね、ぜんまいざむらいが一番強いって言った。ぜんまいざむらいはおもしろいから強いんだって。やさしいのとおいしいの方が、おもしろいのより強いのにね!」 おいおいおい、アンパンマンが一番ってのは、私とだけのひみつじゃなかったのかい。 というツッコミはさておき。 おいしい vs. やさしい vs. おもしろい これは手ごわい勝負である。 「おいしいのが一番!」 と食いしん坊の次男が叫んだが、長男は 「でもやさしいのが一番強いよ」 「でもお父さんはおもろいのが一番って言うし……(←いつのまに夫とそんな会話を??)」 と、大いに悩んでいる風だった。 ところでランチクロスはどれが欲しいか決めたのか? 「えっとねぇ、カエルでいい」 「ほぉ、どうして? カエルは弱くてダサイからイヤなんやろ?」 カエルはべつにおいしくもやさしくもおもしろくもないぞ、と追い打ちをかけてみた。 すると長男、ぼそりと、 「でも好きだからいいの」 と言った。 「みんなにダッセーってバカにされたらどうする?」 「そんなこと言う方がダッセーよ、って教えてあげる」 ほおぉぉぉ、そうきたか。 「だってぼく、カエルが好きだもん」 ふむ。 もしかすると、いちばん強いのは「好き」かもしれないな、とちょっと思った。 |
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